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その男は、一つため息をついた。
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黒縁メガネをかけた、老け顔の男。ずんぐりとした体格の割には、機敏そうな眼。
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いや、そうというよりかは野心に満ちた双眸を、彼は手元のヘルメットに向けていた。
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二階にある、三番教室。そこの一席に彼は着いている。座っているため、正確には分か
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らないが、身長はおよそ百七十五・六といったところか。津波より若干低めで、髪は黒の
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短髪である。まだ昼食の途中らしく、弁当箱を開けっ放しにしたまま、彼は“小宇宙”を手
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に、それを眺め続けている。
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(雷獣の主砲を、お前の艦につけるわけにはいかない。)
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参謀総長に、自分の希望を一蹴された時から、帝国に対する恨みは深まった。
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先日あった“六月模試”の前日、教員室攻略の際に、憂さ晴らしに味方を背後から撃っ
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てみたりした。斥候と称して奪った解答を独り占めしたりもした。当然、周りから恨まれた。
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しかし、それが一体どれほどのものだというのか。
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奴等が――帝国が自分にしたことに比べれば。
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(それに比べたら――俺のしてきたことなんて。)
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彼は“小宇宙”を強く掴んだ。壊れてしまうかと、自分でも思うほどに。
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でも、もうこんな物は壊れてもいいのだ――すでに、もう壊れているのだから。
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彼はもう、帝国の一員として自慢の裏主砲を撃つことすらできない。帝国の人間として
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の命を、彼は失ってしまったのだ。それは文字通り、帝国において死を意味する。
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だが――
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(そんなもの、今となっては必要ないけどな!)
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不敵な笑みを浮かべ、男はカバンから一枚のガラス板のような物を取り出した。板とい
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ってもかなり分厚く、顔に当てると双眸をたっぷりと隠すほどの大きさで、その厚さは一セ
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ンチ近くある。その片端にはプラスチックの器具が付いており、どうやら耳でとめるものら
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しい。それを手にし、男はいよいよ妖しげに笑い出した。
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(中布利……俺が手に入れた新しい力で、お前を完膚無きまでに叩きのめしてやる!)
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口元にごはんつぶがついているのを知る由もなく、彼は独り、ほくそ笑んだ。
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「生きていた?」
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すっとんきょうな声で、山代は金髪の女の言葉に応えた。
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「生きていた――って、てことは、今まで誰か死んでいたのか?」
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「……そうね、そういえばあなたは知らないのよね、普段予備校に来ないから。」
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「ほっとけ。」
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いかつい顔で彼はそっぽを向いた――が、すぐに向き直る。
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「……で? 一体、誰が死んでいたってんだ?」
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「まあ、死んでいた、といっても実際にってわけじゃないんだけどね。帝国内でってこと。」
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「分かってるよ、そんなの。で、誰なんだ?」
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「…………笹原司令長官。」
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間をおいた割にはさらっと言った女の声に、山代は珍しく大声をあげて、
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「司令長官!? そうか、上の連中もとうとう堪忍袋の緒が切れたか!」
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彼は目を輝かせて喜んだ。あまつさえ女の肩を叩いて言う。
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「そうか、そうか。んで、司令長官殿を殺ったのは、どこのどなた様で?」
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「あなたのすぐ後ろにいるわ。『白竜』よ。」
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「するってえと第三艦隊か…………って、白石か!?」
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驚いて、山代は後ろを振り向いた。そうするなり、彼は白石に歩み寄り、その首を掴み
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にかかる。
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「お〜の〜れ〜は〜! しくじりやがったな!」
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「ちち違うよ、確かに僕はあの時あの人の艦を撃って……」
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白石は慌てて、山代の腕を離そうともがく。しばらく山代は白石の首を絞めていたが、
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ふいにそれを床に投げつけた。
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「ケッ! 何で参謀総長殿はこんなチンケな奴に大役を任せたんだろうな!」
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「後の作戦のために、裏主砲のエネルギーレベルの回復の早い艦を選んだそうよ――
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もっとも、あなたがいれば別だっただろうけど?」
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「…………。」
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当たっているだけに、山代は反論できない。もし、その司令長官処刑当日に自分がい
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たならば、いつ、また戦力として利用できるか分からない自分を使っていたのは当然の
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ことだろう。そもそも、参謀総長は自分を戦力としてみていないのだ。それで処刑という
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大役(というか、裏主砲を必要とする任務)を任せられるのなら、それこそ上層部にとっ
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ては丸儲けということになる。
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「それに、確かに『白竜』の撃った“白竜の吐息”は司令長官の艦を破壊した――『白
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竜』は別に指令を遂行できなかったってわけじゃないのよ。」
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「じゃあ……どういうことなんだ? 裏主砲を受けた“小宇宙”は艦隊データを破壊される
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んだろ? 『生きていた』となると、そのデータが破壊されなかった。あるいは修復された
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か……でも、そんな芸当ができるのは皇帝陛下しかいないしな……って――おい、ま
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さか?」
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「この指令は、もともと原田皇帝が直々に下されたものよ。その可能性はないとみてい
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いわ。」
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「ん〜……でも、何考えてんだか分かんねえからな〜、あいつは。」
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かぶりを振って言う女に、山代はしかし素直に同意は示さなかった。腕組みをして考え
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込む彼の後ろに、新顔がいることに女は今さらのように気付く。
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「あら、あなた確か八組の……ええと、広瀬さん、だったっけ?」
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「え? あ、うん。そうだけど?」
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いきなり声をかけられて、広瀬は躊躇し気味に応えた。
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「え、でも……何で私の名前を?」
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「ああ、そういえば昨日、会ってなかったっけ。」
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まだ少し苦しいのか、白石が咳き込みながら広瀬と女、二人の間に割って入る。
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「えっと、この人は情報処理班の、汐月エリカさん。情報主任参謀の仁科君のいとこで、
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彼と同じ十一組なんだ。ちなみに彼女はハーフで、歳は僕らと同じ十九歳。」
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「エリカでいいわ。よろしく。」
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女――汐月はそう言って広瀬に手を差し出した。広瀬もまた「よろしく」と言って、その
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手を握り返す。
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その手を離すと、ふいに汐月は、今までの口調からは拍子抜けしてしまうような声で、
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目を細くして、
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「よかったわ、私の他に女の人が入ってきてくれて。帝国の男どもったら、女をやらしい
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目つきでなめまわすんだから。」
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「ホント。私も早速やられたわ。特にこれとそれに。」
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言って、広瀬はそのこれとそれに目を向ける。
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「そ、そんな、広瀬さん。俺はただ、あなたに純粋に恋心を抱いているだけですよ。」
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と、まだ痛む頭をさすりながらこれが言う。
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「何で僕まで入るんだろう……?」
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とこれは、未だ自分の立場というものが分かっていないそれ。
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「何でって、あなた達が常習犯じゃない。私にしろ、他の女の子達にしろ。」
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「ちょっ、エリカ姐さん、そんな俺を蔑ろにしないで……」
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(俺達じゃないのかよ。)
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と、津波の声を聞いて白石が胸中で呻くのだが、それが津波に聞こえるはずがない。
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「…………おい。」
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津波の言葉を遮ったのは、白石ではなかった。
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「どうでもいいが、さっきの話はどうなったんだ? ただ事じゃないんだろ。」
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「ええ、それについては、参謀総長と情報主任が検討中よ。多分、もうすぐここへ来ると
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思うわ。」
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山代の質問に、汐月はまたさっきまでのような口調に戻って答えた。あまつさえ、続け
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る。
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「それと、作戦主任も来ると思うわ。改めて前・司令長官を抹殺するために、ね。」
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「作戦主任殿も? 珍しく、参謀トリオ勢揃いってことか。」
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「え、参謀って、全部で三人いるの?」
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声は、広瀬のものだった。後ろからの声に、山代は振り向いて、
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「ああ。作戦主任参謀は、戦闘前にしか来ないんだ。もっとも、俺はたまにしか来ないけ
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ど。ちなみに……えっと、君が第六艦隊長なら、もう一人入ったってことだから……皇帝
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陛下を含めて、帝国には全部で十四人いることになる。いや、司令長官殿が抜けたから、
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十三人か。」
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「…………あれ? 十二人しかいないんじゃない?」
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隣で指折り数えていた白石が、間の抜けたような声を出した。
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「えっと、皇帝に、参謀トリオでしょ。戦闘員六人に空母がいて、あとエリカさん。」
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「……お前、軍務尚書殿を忘れてるだろ?」
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「あ。」
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半眼で言う山代に、今度こそ間の抜けた声で彼は言葉を洩らした。
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「知らね〜ぞ、帝国ナンバー2を忘れるなんて。帝国の一員としてあるまじきことかと、参
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謀総長殿に大目玉くらうぞ。」
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「ひえ〜、そ、そんな。」
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「でもまあ、確かにほっちゃんのことは忘れがちになるっていやあなるよな。存在感はあ
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るんだけど、ある意味やーまより顔出さないだろ?」
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広瀬の、さらに後ろにいる津波が、珍しく口を開いた。おそらく、その“ほっちゃん”とい
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うのが軍務尚書なのだろうが。
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「でも、しかしまあ、結成二ヶ月でよく十三人も集まったよな。最初はとよパンにほっちゃ
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ん、フリに俺の四人だけだったのに。」
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もともと、皇帝の原田(とよパンというのは彼のことだろう)と軍務尚書の堀田の二人が
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共同で考えたのが帝国建設の発端であり、それに高校が同じだった中布利と津波が入
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ったのが帝国初期である。それから半月の間に坪内、古谷、白石が入り、中布利が仁科
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を登用、その直後に彼がいとこである汐月を誘い、その彼女が作戦主任参謀の安野を登
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用、後に山代が入って現在に至る。ちなみに、前・司令長官の笹原は帝国初期時の一人
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であった。
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「んで、エリカ姐さん。結局はいつも通り、ここでミーティングあるんだろ?」
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「ええ。まあ、ミーティングというより作戦会議だけど。」
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そう言って、汐月ははじめてオペレーション・ルームへと足を入れた。それにつられて山
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代達も中へと戻り、各々、適当な席に着く。
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「そういや、ケンの風邪はどうなったんだ? あいつ、三日前から休んでんだろ?」
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「あ、それなら僕、一時限目が終わった時に一階で見たよ。」
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「そっか、それなら戦闘員全員集合ってことになるな――」
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シュ……ン
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そこまで言って、津波の言葉は自動ドアの開く音に遮られた。
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