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駅の構内はすいていた。というのも、もともとここのリニアの駅は小さく、それに彼の腕
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時計は既に午後九時を回っている。今は余計にまばらにしか人を見ることはできない。
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だが、それでもリニアの中はそこそこの乗客がいた。この時間帯の下り列車は、家に
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帰るサラリーマンとか何とかで、いつもほどほどの客が乗っている。しかし、それがあち
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こちの席に――一人用から、四人用まで様々な席に、しかもたった一人で――座ってい
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るものだから、何人かがまとめて座れる席というのは皆無に等しかった。
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それでも彼等は、今日もくまなく空席を探し、そこで色々と世間話をする。
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今日の話題は既に決まっている――彼、白石はそう思う度に心が弾んでいた。
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何とか二人用の空席を二つ見つけると、白石と仁科、津波、そして今日初めてこの時
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間帯まで予備校に残った中村の四人は二人ずつがそれぞれ向かい合うように席を動か
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し、そこに腰を下ろした。
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「は〜、しかし、これでなっかんも晴れて第五艦隊長か……おめでとう……。」
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「何なんだ一体、その誉める気のない誉め言葉は。」
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いきなり呟く津波に、中村は笑って応えると同時に、ひそかに彼の足に蹴りを入れた。
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「だって……菜恵ちゃんに嫌われたんだもの……俺の人生はここに散ってしまった……。」
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「俺はお前と十数年顔を合わせているけど、その間にそんなセリフを三桁は聞いたよう
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な覚えがあるのは、俺の気のせいか?」
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「桁が違う、桁が。」
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「あれ、四桁だったっけ?」
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「バカ、ぶっ殺すぞお前。」
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そう言って津波は、さっきのお返しとばかりに中村の靴を足で器用に脱がし、それを蹴
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飛ばした。それを中村は、取ってくるように目で促す。それを津波はもちろん無視する。
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そんな二人のやりとりを横目で見つつ、白石はため息を一つついた。
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「ハァ。こんなはずじゃないのに。」
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「何がこんなはずじゃないというんだ?」
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彼の前に座っている、仁科は首を傾げて聞いてきた。隣でまだ騒いでる津波を指さして、
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「こんなもの、日常茶飯事だろう?」
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「そりゃ、そうだけどさ。僕が言いたいのは、こんなものじゃないんだ。」
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そう言って、白石もこんなものへと指をさす――同時に、津波がそれに噛みついてきた。
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思いっきり。
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「いっっっっっっっってぇ――――――――っ!!」
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「オラ白石、俺に向かって“こんなもの”ちゃ、一体何や? あん?」
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口調まで変えて、本気の目で言ってくる。
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「菜恵ちゃんに嫌われた上に、お前にこんなもの呼ばわりされた日にゃ、ホントに人生の
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終わりがやってくるわ。くっそ、この怒りはどうやって解消させたらいいんだ。ぬう、こうな
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ったらやけや。あの女をとっつかまえてヒーヒー言わせてやるしか……」
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「あの女って、誰のこと?」
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それは、唐突に、あまりにも唐突にやってきた。津波の後ろから。誰もが予想だにしな
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かったものが。
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「ねえ、あの女って誰のこと? 誰? ひょっとして私の事?」
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笑いながら――それでも、とっくに答えを知ってしまった怒りを十二分に感じさせる声音
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で、彼女――広瀬は津波の席の後ろに立ち、彼の頭に右手を置いた。まるで犬の頭を
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撫でてやるように。
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「だ、だだ、誰って、そりゃ菜恵ちゃんにはか、関係のないものでして。」
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「フーン……同じ帝国の一員とやらになった私には、君のプライベートは一切教えてくん
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ないんだ……。」
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「いや、そういう問題じゃ…………」
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「んじゃ、どういう意味?」
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言って彼女は、相変わらず笑みの絶えない顔で、その細い腕からは想像のつかないよ
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うな握力で津波の頭を掴んだ。
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「…………………………………………っ!?」
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白目をむき、声にならない悲鳴をあげて、津波はそれでも何とかその恐怖(痛みかもし
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れない)に耐える。それを白石以下二人が言葉を失いながら見守る。ただ一人、広瀬だ
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けが明るい、しかしゆっくりと、一文字一文字をはっきり聞かせるような声で言葉を続ける。
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「私、ホントは最後の十時まで残ってるんだけど……君達が予備校から出るのを見て、今
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日は早く帰ったんだ。知らなかっただろうけど、私はいつもこの線で帰っていたのよ。」
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「ハイ……存じませんでした……。」
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震える声で、何とか津波は彼女に応えた。戦闘員試験で分かったことだが、彼女は力
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が異様に強い。オペレーション・ルーム内で“小宇宙”を被っている時、こまごまとした机
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があると雰囲気がでない、とそこらの机や椅子を軽々と蹴散らし、または腕で押しのけた
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のだ。津波の頭を掴んだまま、広瀬はさらに続ける。
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「まあ、今日は顔見知りになった初日ってことで、色々話したいこともあるから何も言わな
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いけど……今度は裏主砲の試射にでもつきあってもらうから、ね。」
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「ハ、ハイ。ありがたき幸せ……。」
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何を言っているのか自分でも分からなくなって、津波は、広瀬が彼の頭から手を離した
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とたん、あまりの安堵感から、座席から滑り落ちてしまった。
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「しかし……裏主砲の試射につきあえ、とはいささか言い過ぎじゃないか? 君の裏主砲
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――第六艦隊『戦女神』の“美しき死神”の威力ははっきり言って現時点での帝国内で
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はトップクラスだ。そんなものを生身で食らったら、昏睡くらいではすまんぞ。」
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ちょっと震えがち(見ているだけでも怖かった)な声で仁科は、未だ津波の後ろに佇む
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広瀬に言った。彼女は座席の方に回り込んできて、津波を白石を方へ押しやると、空い
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たそことへ腰を下ろす。
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「だって、この人達って下心丸出しで私に言い寄ってくるんだもん。」
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「この人達って……何で僕まで……?」
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絶望的な声音で、白石がぼやく。
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「お前、オペレーション・ルームでずっと広瀬のこと見ていただろう。その時、どんな双眸を
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していたか、まあ自分では知る由もないだろうが。」
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仁科は半眼で白石を睨んだ。白石は、そんなに変な目をしていたっけか? と胸中で自
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分に言い聞かせるように眉間を寄せる。その様子を見て広瀬は、俯いて深いため息を一
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つついた。
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一方、中村は、一人さっきから何か考え込むような姿勢を取っていたが、広瀬がため息
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をつき終えるのを待っていたかのように口を開いた。仁科に向けて。
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「さっき聞いてて、ふと思い出したんだけどな……裏主砲やノーマル――あの、オプション
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機から発射するってやつ――それなんかの、ミサイルの類を生身で受けると、どうして寝
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ちまうんだ?」
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「“小宇宙”によって生ずるものは、全て架空の現実だ。実際には、ミサイルの類を発射す
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る際に、“小宇宙”からはα波が放射されている。」
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「α波?」
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「そうだ。ミサイルの強さに応じて、α波の波長も短くなってくる……こういった“波”の類
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は、波長が短いほど強力なのさ。物理で習うから、理系の人間なら知っている。そうだよ
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な、白石?」
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「え、そうなの?」
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心底、初耳だという表情で白石は驚愕した。それを仁科は――一瞬、間をおいて――
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無言で彼の臑に、座っている姿勢からは繰り出せるとは思えない、強烈な蹴りを放った。
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「ンギャアッ!!」
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白石は白目をむいて叫び、一通りじたばたした後、その場にぐったりしていた津波の上
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にのっかるように悶絶した。何事もなかったかのように、仁科は続ける。
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「……まあ、そういうわけだ。人体にとってα波は睡魔を引き起こす。また、“小宇宙”に
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当たると内部のコンピュータシステムが一部、あるいは全体が破壊されるようになってい
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る。」
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「なっている……って、つまり、わざとそうなるように造られているわけ?」
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広瀬は目を丸くした。仁科は肩をすくめて、
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「まあな……そこんところの詳細は、原田……もとい、皇帝に聞いてみてくれ。ま、俺が思
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うに、そうした方が“小宇宙”同士の戦いで、現実味があって楽しくなるからってんじゃない
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かな。」
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「皇帝って、あの人よね。同じクラスの、変な仮装してくる人。何であの人が皇帝なの?」
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「“小宇宙”は、彼が発明したのさ。」
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「ええっ!?」
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仁科の言葉に、広瀬と中村、二人が声を揃えて驚愕した。
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「勉強に対しては、そう頭はよくないらしいが……悪くもないらしいけどな。ただ、勉強以外
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の、例えば遊びに関することとかに関しては天才的らしい……まあ、趣味はあまりいいと
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は言えないって聞いたことがあるけどな。ただ、スペースオペラ――これも聞いたとは思う
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が、まあ簡単に言うと宇宙で戦艦を駆って戦争をするってなものだが――これを題材にした
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“小宇宙”を創り出したことについては、俺は悪趣味ではないと思うがね。」
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「でも、私達以外に“小宇宙”を持っている人なんていないよ。“小宇宙”同士の戦いって言
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っても、それはあり得ないんじゃない? それとも、帝国の敵、なんてのも設定しているわけ?」
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「まあ、設定自体はされている。最も、連中は“小宇宙”なんて装備していないけどな……
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登用の際に言った通り、俺達、帝国の敵はチューター――予備校の先生達だ。」
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「そっか……そういや、そうだったわよね。」
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広瀬が、満面に笑みを浮かべて応える。心底、楽しそうな笑みを。
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「ああ。何がおもしろいって、それが一番おもしろそうだったから、俺も帝国に入ったんだよ
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な。」
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彼女の隣で、中村も楽しげに――悪戯をする、子供のように――笑う。
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仁科は、彼も楽しそうに――かつ真剣に、人差し指を立て、二人と声を揃えて言う。
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「我々、帝国“バイツァ・レグルス”の目的は……憚るチューター達の隙をついて、模擬試
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験の解答を奪取すること!」
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三人は、揃って笑い出した。無邪気な子供のように。
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しかし、この中にはこんな当たり前のような意見を持った人間は誰一人、いなかった。
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「帝国と名乗る組織にしては、目的はちょいと、セコくないかい?」
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