あれから私は、さらにサイトの発掘(?)を続け、現在も利用させてもらっているフリー素
材を作っている「0-MATERIAL」や、面白いCGをふんだんに使った、その2ndページであ
る「Forbidden Palace」、GB版Sa・Gaを主に力を入れている、サガ一色の「楽園」等、
多種多彩なサイトに出会うことができた。小説やサガ、その他の面において、我がHPも
おかげで少しずつではあるが成長してきた。
そんなある日、ショッキングなニュースがメールで届いた。
ほとんどの人には信じてもらえないかもしれないが、私には「知人が亡くなる前兆とし
て、右胸が前日・当日に痛む」というジンクスがある。ウソのようだが、実際5割程度の
確率で、回数にして6回当たっている。こんなもの、当たってほしくないのだが、私にはど
うしようもないのだ。その日はテニス(部活)の、千葉でのリーグ試合があった。へとへと
になっているところで、その痛みである。それも、この日は妙な胸騒ぎがした。家に帰った
途端、実家に電話をかけてみた。昨年は愛犬がこの世を去ったが、まさか今度は誰かが
……と思ったが、さすがにそれはなかった。
何だ、杞憂か……と思いながら、その日は床についた。
そして翌日。そのメールは届いたのだ。
その日は、試合の翌日ということで部活はオフだった。朝起きて、メールを確認すると、
その1通が届いていたのだ。案の定、弟子からである。
案の定、というのは、試合帰りとか、そういった遠征の類から帰った日には、私は彼女
にメールを出すようにしていた。大抵、返事が翌日に返ってくるので、疲れを癒すには最
良の薬だったのだ。そのつもりで私は、そのメールを開けた。
1段落目。私のと似たような感じの文章。つまり、向こうも疲れているらしい。
何か、悪いことしたかな、と思いながら、次の段落の文頭を読んだ。
「……えっ!?」
私はそう、声に出して驚いてしまった。何か、場違いなことが起きてしまったかのように。
そこに書かれていた1文は、あまりにもショッキングだった。
「昨日父が死にました。」
私はしばし、愕然とした。以前のメールで、何度か彼女の父のことが書いてあったことが
あったが、それによれば別に病気もしてないし、亡くなるようなことはないはずだった。なの
に……。
(……なぜだ?)
焦燥する私の脳裏には、もう1つの懸念があった。彼女は、「母親とは既に死別」してい
るのだ。つまり、若くして両親共に亡くしたことになる。
(……ウソだろ?)
私は、どうしていいのか迷った。どう慰めていいのか迷った。これは、後から思ったことな
のだが、ネットの利点として「言葉を選ぶ時間」がある。例えば、ムッとするような書き込み
があったとしても、実際は売り言葉に買い言葉のような、ケンカっぽい展開になるのだが、
こっちが落ち着いて、冷静に対処できるまでの時間を稼ぐことができる。つまり、最善を尽
くすことができるのだ。
とりあえず、私は実家に電話して、両親に相談した。彼等は、自分の考えと似たようなこ
とを言った――つまり、しっかり、優しく慰めてやれ、と。
私は、メールを書き始めた。最後のメールのつもりで、少々長めに、でも読みやすいよう
に言葉を選びながら、慎重に書いていった。最後に、私の住所と電話番号、そして本名を
書いて、そのメールを送った。
そして数日後。その日は夏合宿前ということで、その用意をするために午前で練習が終
わった。つまり、普段はいるはずのない、午後2時にかかってくる電話を私は取ることが
できた。
「……もしもし、ツボさんですか?」
受話器の向こうから聞こえてきたのは、そんな声だった。女の声で、私のことを「ツボさ
ん」と呼ぶのは、部活の後輩しかいない。だが、そんな声の後輩なんて、身に覚えがなか
った。
何なんだろうと怪訝に思っていると、その声は続けてきた。
「……白夜です。」
最初、何だろうと思った……それこそ、「白夜って、誰?」というように。
しばらくして、私はハッと気が付いた。
「あ……ああ!」
頷くように、私は言葉をもらした。ようやく相手が誰か、分かったのだ。だが、かける言葉
が見つからない。とりあえず、挨拶することにした。
「どうも、こんにちは。」
「こんにちは……というか、はじめまして。」
違いない、と私は苦笑した。リアルタイムに接するのは、これが初めてだからだ。
「えっと……う〜ん、ゴメン。ちょっと、かける言葉が見つからない。」
「いいですよ、みんなそう言いますから。」
大人っぽい声で彼女は、しっかりとした口調で言ってくる。私は少し、安心した。
「でも、本当にすいません。こちらのことで師匠に迷惑かけてしまって。」
「とんでもない、そんなことないさ。」
「こちらのことなら、心配いりませんから。いとことか、みんないい人達ばかりですし。」
「ああ、そういえば以前、親戚のことについてメール送ってもらったね。結構大勢いるんだ
っけ?」
「ええ、今も1階にいますよ。だから、心配しないで下さい。」
「なるほど……じゃ、とりあえずは一安心、していいってことでいいんだね。」
「ハイ。」
とりあえず、ホッとした。ひょっとしたら、あまりの出来事に彼女は乱心してしまっている
のかもしれないと思ったのだ。
「……でも、よかった。優しそうな声の人で。」
そうかなぁ? と胸中で苦笑した。それからしばらく、会話が続く。
やがて、話題が一変した。こちらが何とか励まそうとしていた中で。
「そういえば師匠、勉強、大変なんですよね?」
「え、うん、まあね。」
プロフィールにも書いている(いや、書いていた、か)が、私は当時留年にリーチがかか
っていたのだ。これは実際、シャレにならない状況で、本当に胃が痛い毎日だった。
「頑張って下さいね、留年なんてしないように。」
逆に励まされてしまった(笑)。
「うん、こっちも頑張るよ。だから、そっちも……頑張って。」
「ハイ! じゃ、また機会があったら。」
そう言って、その日は電話を切った。そしてすぐに、私は実家の方に電話した。
「はい、もしもし……あ、何?」
「ああ、今さっき弟子から電話があってさ。」
「ホント? ……で、どうだって?」
「うん、何とか大丈夫みたいだよ。」
実際、彼女の口調はしっかりしていたし、何より強かった。小さい頃、よく親が出かけ
てなかなか帰ってこなかっただけで泣いたりしていた私にとって、彼女の凄さはあまり
にも強烈だった。
今、私の両親がこの世を去ったら……どうなるのだろう。自分はともかくとして、妹2
人を引っ張って生きていく自信は、はっきりいって、ない。
「大丈夫……あの子は強いよ。だから……とりあえず、心配すんなってさ。」
この後、ネットではさらに、読み物好きのためのリンク集「ReadMe!
JAPAN」や、自
作の小説をオンラインで売ることのできる「PDF
Agency」、日本初のオンライン専用ナ
ビゲーター「HONナビ」等、ちょっと前までは考えもしなかった小説関係のサイトを色々
と見て回った。だが、その小説を通じて今まで私が得てきたものは、小説の技術云々
だけではない。いや、それよりもむしろ、他のことが多いほどだ。色々な友人、様々な
世界観の持ち方、ネットに対する思い入れ、そして人として大切な感情――ちょっとし
たことが原因で始めたインターネット。それが私にもたらしたものは、とてつもなく大き
い。
それから1ヶ月。ある程度落ち着いてきた弟子から、メールが来た。さすがにまだ、
ショックから完全に立ち直れてはいないようだが、そのメールは私を強く感動させた。
特に最後の1行――彼女の書いた、その原文をもって、このエッセイの文末とさせて
もらうことにする。
「きっとこの世で一番深くて強い愛は、親が子に与える愛なんだと感じてますよ。」
− Encount
with Destiny・完 −
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