Encount with Destiny・あとがき
99年1月30日。
私は、朝早くに電車に乗り、とある駅に着いた。我が弟子、白夜さんと慧霧さんに会う
ためである。ちょっとした土産と、食いそびれた昼食を手にし、私は実家にあるような、田
舎の改札を通った。
そして、目印を探す。白と黒の帽子を被った、2人組の女の子。キョロキョロしながら歩
いていると、ふとすぐそばにそれらしい人がいることに気が付いた。
「……………………。」
人見知りという体質は、ちょっとは治ってきているのだが、いまいち第一声が見つからな
い。じっとそちらを見つめていると、やがて向こうがこちらに気付いた。
「え、と……ひょっとして、師匠、ですか……?」
私は素直に頷いた。その、白い帽子の女の子――白夜さんは、「どうもはじめまして」と
言ってきた。こちらも挨拶を返す。もう一人の、慧霧さんもこちらに気付いたようだ。
一通り、話をすませると白夜さんが言ってきた。
「あの、すいませんけど師匠……いきなりですいませんが、自転車を借りて下さい。」
交通手段がないからだ、ということで私は、夕方まで駅の自転車を借りることにした。実
はこれが予想外の手痛い出費だった。というのが、1泊2日で来た、この(実は)人生初
めての一人旅は、土日を利用してきたのだ。つまり金がおろせない。しかも、その前日は
疲れて眠ってしまい、旅費を下ろすのを忘れてしまったのだ。幸い、私はいつも2万円を
へそくりとして隠しておくという習性があり、奇跡的にここまで来れたのだ。
だがまあ、金のことはいいとして、私達はまず慧霧さんの家へと行くことにした。そこで
とりあえず、互いの創作活動について語ったり、昼食をとったりした。
その時、私は別にそのつもりはなかったのだが、食べる際に「あること」をしていたのだ。
それを見て慧霧さんが、
「こら、師匠!」
と、叱責してくる。私はわけが分からず、眉をひそめた。
しばらく――いや、かなりして、私は気付いた。どうやら、片手だけで食事をしていたら
しい。要するに、向こうには私が、片手をこたつに突っ込んで食べているように見えたらし
い。
実際は少し違った(というか、何かは忘れたが訳があった)のだが、年上の(それも、ほ
とんど面識のない)人間にキッチリと言えることが言えるというのは、正直感心した。と同
時にホッと安堵する。少なくとも、自分の嫌いな人種ではないようである。これは後になっ
てから分かったことだが、向こうも同じことを考えていたらしい。「恐い人だったらどうしよ
う」とか。だがまあ、とりあえず、お互い友好関係の持てる人間であれたようだ。
それからしばらく寄り道とかして、白夜さんの家へと行った。1階にある仏壇に手を合わ
せ、2階の彼女の部屋に行く。そこには、彼女の妹さんもいた。
この妹さんなのだが、やたらと元気がいい。この「やたら」という表現はいささか失礼な
のかもしれないが、「まあ父親が亡くなって元気がないだろうから、最初は励ましの言葉
でも言うべきなのか」という私の懸念を見事に吹き飛ばすかのようだった。どれくらい元
気なのかというと、我が下僕こと妹1・2とタメを張れるくらいだ。
姉である白夜さんと、プレステをやっている時でも、どっちが姉なのか分からないくらい
に彼女は強気だった。確かにメールでも、白夜さんは「あいつ(妹)には何をやってもかな
わない」と書いてあったことがあったが、何となく分かるような気がした。
「あ、何、姉貴の師匠なの?」
ハ、そうであります、と下手に出なければならないという、本能からの指令が脳に直接
行き届く(何のこっちゃ)かのような勢いだ。私は安堵を行き越して、ちょっとビビ……い
や、驚愕した(笑)。
そんなこんなで、その日は白夜さんが薦めてくれた宿に泊まることにした。思ったよか
良い部屋でビックリした記憶がある。そこで夕食をとれるほどの経済的余裕はなかった
ので、途中でコンビニで買っていった。
翌朝。不安が的中して、寝坊した私は彼女達との約束の時間に間に合わなかった。
何とか5分程度でよかったのだが、昨日返却した自転車がないので、白夜さんの家ま
での早朝ランニングが始まった。
そして今度は、そこから最寄りの駅に行って遠出することにした。遠出と行っても、そ
んなに距離はない。電車で15分かそこらである。そこで私は弟子2人と、昼過ぎまであ
ちこちと歩き回った。
それから家に戻ってからは、ぷよぷよ大会と化していた。私の乗る電車が来るまでの
数時間、最後の楽しい時間を4人で過ごす。時間が来たら、弟子の2人は私をわざわ
ざ駅まで送ってくれた。
帰りの電車に乗りながら、私はふと考えた。ネットをしていなければあの2人とはまる
っきりのアカの他人だったろうし、白夜さんの父親が亡くなったことだって、私の知らな
い所であったのだろう。そう考えると少し、妙な気持ちになる。彼女のような、両親を亡
くした子供というのは、日本に少しはいるだろうし、兄弟もいない人だっているだろう。
それよりもっと悲しい状況にあっている人もいるだろうが、私はその人達を知らない。
そして、その1人だったであろう彼女のことは、私は知っている。だが、今まで会ったこ
とはなかった。
(インターネット、か……。)
ネットでの出会いについて、色々と批判している人達がいるだろうが、確かに実際の
出会いとは少し違っても、「ネットだからこそできる出会い」、「ネットでしかできない出
会い」というのもあると思う。そして、これもまた、運命の1つではないだろうかと私は、
筆を取りながら思っている。
P.S. これを書き終えた時点でカウント9181……1万HITまでもう少し。
99.4.15
PM5:22 作者
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