気が付くと一行は、ジークデン砦まで来てしまっていた。
彼らは作戦通りに骸旅団を追い詰め、そこにはぽちょむ君の兄・ザルバッグ率いる北天騎士団が控えているはずだった。確かに北天騎士団が待ち構えている。 が―― 「クックック……待っていたぞ、ぽちょむ君……」 騎士団の先頭に立っていたアルガスが、そう、セルフィアを指して言い放つ。 「俺は、お前の兄貴にこの作戦の全指揮権を任されたのだ……お前もろとも闇に葬るためにな!」 「任されただけに、負かされるんですな」 「つまらん」 間髪入れずに呟いたセルフィアの裏拳が、後ろのブッシュの顔面を打ち据える。鈍い音と共に宙を舞った彼の身体は、そのまま建物に直撃して動かなくなってしまった。よく見ると、鼻が折れている。 かわいそうなブッシュ。パソの一発変換を採用しただけなのに……嗚呼。 「……………………」 訪れる静寂。しんしんと降り続ける雪が、辺りの空気をより冷たくしている。 全員、雪で埋もれてしまうかとも思えた沈黙は、ちょっと意外な人間によって破られた。 「……ま、まあ、あれだ。お前の運命もここまでということだ。何でもいいからやっちまうぞお前ら!」 完全に臆した様子のアルガスの言葉が、戦闘開始の合図となる。 最初に動いたのはマスターだった。まずは目の前にいるナイトを、拳で沈める。しかし、その後ろにいた黒魔道士が既に魔法の詠唱に入っていた。 (……俺をターゲットにしているのか?) よく見ると、その黒魔道士は彼にガンくれていた。 いや、正確には分からない。だって、目が光ってるだけだもん。 それでも被害妄想なマスターは、自分にガンを飛ばしていると (野郎……俺の脳みそも筋肉だと思うなよ?) ポケットの中に手を突っ込み、眉間にしわを寄せてガンくれ返しながらマスターは、その光を発する黒タイツに帽子をかぶせた物体へと近づいていく。 そして――詠唱が終わった。 「ファイラ!」 爆音をたてて、紅蓮の炎が標的を飲み込む。 その炎が燃え尽きた後には、もともと焦げていたのか何だか分からない黒魔道士の姿があった。 (ふ……愚かな。移動範囲内の敵を標的に選ぶとはな……) そう、マスターが何ていうか、もはや少なくなったというか滅びかけている前髪をかき上げる頃には、もともとの標的である彼も炎に包まれていた。が、それもやがて消えていく。 彼のHP全てを奪って。 (まあな……所詮、白子でできた脳みそじゃ、こんなもんが関の山だよな……?) 汗と涙と鼻水を散らし、マスターが新雪の中に倒れ込む。 そんな、1人のちょっと間抜けで(文字通り)ノータリンな若者の青春が散った頃には、そこにはアルガスとセルフィアしか立っていなかった。 「や……やるじゃねえか……」 肩で息をするアルガス。 彼の双眸の向こうには、こたつに入って優雅にミカンを食しているセルフィアがいる。 ――ていうかさ、立ってなかったのか?(4行前参照) 「あったかぁ〜い、にゃは♪」 アルガスの言葉が耳に入らないのか、構わずセルフィアはこたつの台に頭を預ける。 「……このぉ、無視するんじゃねぇ……」 「突っ立ってないでさ、入んなよ。きんもちい〜よ〜☆」 頭を寝かせた状態のまま、ねだるような上目遣いで言うセルフィア。 「き、貴様、その視線は何というか、反則だぞ! 反則ってったら、ずるいことなんだぞ、分かってんのか!?」 「ん〜……わっかんなぁ〜い……」 目をこすりながら、もう戦闘なんて知るかコラァと体で表現するかのように、横になるセルフィア。命を賭して戦った、ブッシュとマスターがかわいそう。さっきからアルガスの後ろで、自分に指差して存在をアピールしても気付いてもらえないぽちょむ君もかわいそう。ああかわいそう。 「く……いや、自分を見失うな! あれは奴の作戦だ、誘惑だ! だが……ええい、落ち着けアルガス! いくら誘っているとはいえ、お前は以前奴に屈辱を味わわされただろう! 思い出すんだあの辛い日々を!」 頭を抱えて悩むアルガスに、遂にこらえきれなくなってぽちょむ君が近づいた。彼の肩をポンポンと叩き、にっこり笑って自分の顔を何度も指差す。 しかし、アルガスの対応は首を傾げるだけだった。 「……何だ、子供は帰って寝る時間だぜ、ボウズ」 プチッ 「覇○翔吼拳!!」 ――かくして、アルガスは銀世界に散った。 宙を舞っている最中に「そりゃあゲームが違うぜボウズ……」と言っていたような気もするが、気にしないことにした。 気になるとしたら、それは親友・ディリータの今後のことだった。 彼はジークデン砦での戦いを目の当たりにして「こんな戦いをする奴がベオルブの名を継ぐなんてやっちょれんわボケ! わいがこのイヴァリースを建て直してやるけん」と言って、どこぞへと消えてしまった。 空は暗く、そして赤い。「獅子戦争」の戦火に染まった空の下、ぽちょむ君は鏡を手にし、そんなに自分は童顔なのかと沈鬱な思いにふけていた。 |