さて、盗賊を退治したぽちょむ君一行はその戦績を称えられ、骸旅団討伐チームとして騎士団とは別に組まれることになった。彼らは風車小屋経由で骸旅団を追い立て、そこを北天騎士団が後ろから挟み撃ちにするという作戦である。
ぽちょむ君一行はイグーロス城を出て、まずガリランドに向かった。が、その道中に名も忘れてしまった草原で1人の剣士と出くわした。彼は岩に腰掛け、何やら終わってしまったという表情をしている。 「……で、何が終わったんだい?」 「いきなり失礼なことを言うなっ!」 その剣士、アルガスは憤怒の形相でぽちょむ君に食ってかかった。 「きゃー、食われるー」 「……何か、端から聞くと凄く怖いな、それ」 「誰が貴様なんかと! そこの白魔道士なら話はともかく、俺にはその気なんてない!」 しかし、今や白魔道士となったセルフィアへのそのセリフが、彼の運命を変えてしまった。 「……あら、あなた。私の相手をして下さるというの?」 セルフィアが、アルガスに手をかける。『手をかける』といっても、『まだ』殺るわけではない。艶かしい彼女の指が、アルガスの頬を這うように撫でる。 「まあ、悪くはないが……生憎、貴様のような平民出の下賎な女には興味がないんだ」 「あら、そぉ……でも、私はあなたに興味があるのよ……?」 そう言い終わる前に、左手に持つナイフをアルガスの脇腹に突き立てた。しかしそれは読まれていたらしく、アルガスは彼女の手をつかみ上げると、ナイフを奪って彼女の首にそれを突きつける。 ――だが、異変はその直後に起きた。 セルフィアの顔が、一瞬悪魔のようにドス黒くなり、こめかみが浮き出たというか、血沸き肉踊るというか、ていうか何で『ちわきにくおどる』を変換すると『千脇二区躍る』と出るんだこのバカパソは? 話がそれたな。何ていうか、そう。ほら、あれだ。とにかくせふぃ〜はアルガスの顔に触れていた右手で野郎の身体をつかみ上げると、岩に叩きつけてKO勝ちしたわけだ、うん。 「く、くそぅ。お母ちゃんに言いつけちゃる、覚えてろぉ。うぇ〜ん」 そう言い残して、アルガスは消えていった。 後は、何事もなかったかのように腕を回し、肩をほぐしている白魔道士と、今にも逃げ出しそうな表情をしてこわばっているその他3人が、風に吹かれて震え上がっていた。 「ほう、こりゃ立派なものだ」 風車小屋を一瞥し、手を掲げてブッシュは感嘆した。 ここに辿り着くまでに、しばらくアルガスがストーキングでついてきていたのを一蹴したとか、ミルウーダとか名乗る女剣士に誰がトドメを刺す(というか経験値稼ぎ)のか決めるのにパーティアタックしてむしろ経験値が多く稼げたとか、どうでもいいことが色々あったが、今となってはいい思い出となったのでもうどうでもいいとか否か。 「しかし、我々は影が薄いですなぁ」 ボソッと呟くマスターに、ブッシュは苦笑いを浮かべた。 「まあ、それは仕方ないことでしょう。物語とは、ヒーローとヒロインがメインなわけですからして」 「なるほど、それでは我々は前菜といったところですな」 「そうですな、ぽちょむ君がこの物語のメインディッシュですからな」 「ふむ、しかし前菜が油っこいと、メインディッシュが腹に入らないのではないでしょうか?」 「……どういう意味ですかな?」 「こうマッチョだと、脂肪は少なくとも前菜には向いていな 「マッチョって言うなあぁぁっ!!」 ドクシャァッ ブッシュの絶叫と共に、マスターは風車の翼に叩きつけられた。 「これが咆哮の臨界! 波動撃!」 「いや、やった後に言われても」 額に血をにじませ、ちょっと困ったような表情でマスターが風車から降りてきた。 「しかし、いつも思うのですがなぜチャクラにはセリフがないんでしょうな?」 「……さあ?」 何事もなかったかようにモンク2人が首を傾げているところに、1人の剣士が現れた。 「……おや、あなたはぽちょむ君の親友でありながら今まで1度も登場していないディリータさん」 「いちいち説明せんでもいいです……」 ため息をつけて応えるディリータ。しかし、それ以外にも彼には疲労の色が見て取れた。 「……一体、何があったので?」 「そういえば、ぽちょむ君は遅いですな。あとセルフィアも。敵の様子も見えませぬが?」 「……そのことなんですが」 ディリータは、ハンカチで(冷や)汗を拭きながら、 「あの、さっき風車の翼が1枚ほどもげたのですが、」 「え……あ、ホンマや」 見ると確かに、4枚あるはずのうち1枚が欠けている。 「あれが落ちてきてですね、ウィーグラフ達を潰してしまいまして。ウィーグラフだけは逃走したようですが」 「おお、よかったやん」 安堵したブッシュに、しかしディリータの言葉が追い討ちをかける。 「いや、その……それだけでなく、彼らと戦っていたぽちょむ君達も一緒に……」 「……………………」 永い、果てしなく永い沈黙。 一陣の風が舞った。冷たく永い沈黙は、マスターの「まあいいや」という偉大な一言で終わりを告げた。 |