ぽちょむ君=ベオルブは退屈だった。
毎日深夜にセルフィアやブッシュ、マスター達と麻雀するのはそれなりに楽しかったが、さすがにそれもマンネリ化してきて飽きてしまった。唯一セルフィアを苛めるのは何度やっても飽きないのだが、最近はかえって返り討ちにあうことが多くなってきたので、逆にストレスがたまったりすることがあった。 「もう、こんな毎日は耐えられねぇ。一体どうすればいいんだ」 そんな時だった。彼の兄達から、盗賊討伐の命令が下った。 聞くところによると、ここ最近からガリランド周辺に盗賊が沸いて出てきては好き放題やっているらしい。兄達北天騎士団は骸旅団の討伐で手が離せないので、アカデミーの見習い剣士である弟のぽちょむ君に盗賊討伐を任せたいということだった。 「これだ! 俺はこんな快感の毎日を待っていたんだ!」 何が快感なのがいまいち謎だったが、かくしてぽちょむ君=ベオルブは他の3人を引き連れて盗賊討伐に出た。 「いいか、奴等は極悪人らしいから、処置は生死を問わずということらしい。よって七面鳥撃ちのように殺って殺って殺りまくってくれ!」 彼の形相は鬼神(奇人)の如くイカレ(逝かれ)、毛根や涙腺からはアドレナリンが溢れ出し既に出陣準備オーケー的精神状態というか、何かこう、ヤバかった。しかし、普段彼から苛められているセルフィアは彼に対する被害妄想が強くなっていたため、言葉が自分に向けられたと思い込んだ上に『殺る』にあてる漢字を間違えて受け止めてしまった。 「あなた、あまりに興奮されていては勝てる戦も勝てませんわ。せっかくお兄様方に頂いた初陣ですもの、この鎮静剤を飲んで少し落ち着いてから出陣なさいな」 「おおっ、言われてみればその通りだ。さすが我が妾、そなたの気持ち受け取っておくぞ」 かくして、お約束というか何というか、つまるところが下剤を飲まされたぽちょむ君を残して出陣した3人は、日頃の憂さ晴らしよろしく盗賊どもを瞬殺した。 「ローンッ、リーチ一発平和ドラ10数え役満んっ!!」 「貴様ら、その弱さは何ていうかチョンボだぞ。8000点払え!」 「はーっはっはっはぁっ!!」 よくわからない掛け声と共に繰り出される攻撃は、とても見習い剣士のものとは思えなかった。剣を振えば首が飛び、アイテムを投げれば毒に犯された。この様子を見ていたガリランドの人々は、鬼神の降臨として後世に伝えたという。世に言う、『プチ獅子戦争』であった。 かくして、見事勝利を収めたぽちょむ君(というかセルフィア)一行は、北天騎士団長ザルバッグに凱旋を迎えられた。しかし、団長を一発変換すると断腸と出るこのマシンは、とても大学のものとは思えない。どうしたものか。 「見事な勝利だったな、ぽちょむ君……と言いたいところだが」 「はあ……」 出るものを全て出し切ったぽちょむ君は、ゲッソリとした表情だった。 「確かに生死は問わないと言ったが、あまりにも殺し方が残酷すぎたのでな。お前に始末書を書いてもらうよう、アカデミーの学長に頼まれたのだ」 「わ……分かりました……?」 ぽちょむ君は一瞬訝って首を傾げるが、後ろの3人はあさっての方向を向いていた。 「しかし、何だ。お前は何か生気が抜けているような表情じゃないか。一体何があったのだ?」 「はい……何か、毒を盛られたようでして……」 「危うかったところを、私がお助けしたのですわ」 続きを言おうとしたところを、セルフィアが間髪入れずに応えた。ぽちょむ君が抗議しようとするがいかんせん声がか細く、後ろのブッシュやマスターの「さすがアイテム士」という声にかき消されてしまった。 「そうか、我がベオルブ家は何かと敵が多いからな。いつ命を狙われるかもしれん。よく助けてくれたな、弟に代わり礼を言おう」 「やだぁ、お礼だなんてお兄様ぁ♪ 私は当然のことをしただけですわ。うふ♪」 聞きなれない彼女の声色に、周りの人間の顔色が一斉に変わったのだが、それはまた別の話である。 |