宇宙飛行士。それが昔からの僕の夢だった。
限りなく広がる宇宙空間。闇に散りばむダイアモンドのように煌めく星々……
幼い頃から、そんな魅惑に取り付かれた僕はただひたすら空を、宇宙を眺めることが多
かった。宇宙飛行士となって、闇の天空を駆ける僕の姿を重ねて……
そんな夢を抱きながら年月が経ち、現在。19歳の僕は、念願叶って宇宙を駆るスペー
スシャトルに乗ることができた。
ただし……公式な宇宙飛行士として、ではない。
「よぉ、ケイリ。乗り心地はどぉだぁ? 俺の機の良し悪しはともかく、お前の夢が完全に
叶ったってわけでもねぇから、よすぎるってこたぁないか? ケーッケッケッケ。」
いつの間にか僕の隣に佇んでいる男に、僕は半眼で向き直った。
「それ……僕に対するイヤミ?」
「いんや、そんなわけじゃねぇさ。俺達ゃ親友だろ? お前がぼけーっと窓から星ばっか見
てるもんだから、意識までフッ飛んじまってるのかと思ってよ。せっかくここまで来たのに記
憶がなくっちゃ、楽しい思い出ってのはできないからな。ケッケッケ。」
彼は、面妖な笑みを浮かべてそう言うと、きびすを返してコクピットへと戻っていった。
彼の名はペセタ。僕の悪友……というか、腐れ縁というか……なぜかいつも行動を共に
しているため、世間体では「親友」ということになっているのだが、僕はあまり認めたくはな
かった。
……が、
(あいつがいなきゃ、こんなに早く宇宙に出ることなんてできなかったもんな……。)
僕は、嘆息まじりにそう、胸中で独白した。
こいつの家は国内でも有数の金持ちで、自家用スペースシャトルを3機も持っていると
いうとんでもない所だ。つまり、今僕達が乗っているのはペセタの父さんが所有するもの
だが……
実は、ペセタが無断で借用していたりする。
もっとも、そうと知っていれば僕だって搭乗なんかしなかった。地球を発ってしばらくして
から、面白半分に聞かされたのだ。その時僕の顔は蒼白極まっていた。
けど、心の中では嬉しい気持ちもあった。形はどうあれ、念願の宇宙へと飛び立てたの
だから。
昔は宇宙飛行士になるには、よほど博識であり、またお金や学力、コネなんかが必要
だったらしいけど、23世紀である今、宇宙開発の学部を卒業すると最短コース(成績など
が関連する)でいけば、卒業の翌年から晴れて宇宙飛行士となることができる。僕はその
宇宙開発学部所属の1年生だ。ちなみにペセタは僕と同期。
僕の成績は一応、学部内ではトップの方に食い込んでいる。が、悔しいことにペセタは
今期主席を取ったエリートなのだ。どうしても奴を超えることはできない。あんないけすか
ない奴が、宇宙開発学部に入学した動機が「暇つぶしにお前がトップになることを阻止
してやろう」の一言だった奴が、どうして……彼の両親のように、善良な人ならともかく、
あの野郎には負けたくない。くそう。
機内のウィンドウを凝視しながら、僕はそんなことを考えていた。すると、スピーカーから
唐突に音声が鳴り響いた。ペセタだ。
「ケイリ、そろそろ木星の上空に到達するぜ。目ぇ見張っておけよ。ただ、あまり見過ぎて
瞳孔かっ開かないようにしろよ。ケーッケッケッ。」
くそ、あの野郎。好き放題言いおって。
だが、ガマンガマン。今のあいつはスポンサーのようなものだ。外面はどうあれ、根はい
い奴なんだ。だからこそあいつはわざわざ無断借用してまで僕をスペースシャトルに乗せ
てくれた。父親に頼めば、断られるのは目に見えていたから。
「まあ、これもラッキーだったと思って、活かすのが一番だろうな。」
僕はそう独白して、ペセタのいるコクピットへと歩を進めた。