私のHPは、最初は当然のことながら「工事中」のコーナーばかりで、内容の薄いもの
  だった。さらに、時間のほとんどを短編の「木星で見た夢」に注ぎ込んでいたため、原稿
  が徐々に進行していくだけで、内容そのものに変化はない。さらに、ページ制作の技術
  も未熟であり、画像の1つもないHPは、私から自信を削り取っていく一方だった。
   そんな時、(あくまでも私「個人」の中で)変化が起こった。当時、うちには掲示板を設
  置していなかったので、私事以外は、流水さんの掲示板を使わせてもらっていた。つまり、
  短編を更新する度に、読みに来て欲しいという、宣伝をさせてもらっていたのである。最
  初は、読者は当の流水さん1人だけだったのだが、新しく読者が現れたのである。
  「HP拝見させていただきました。すごい小説をお書きになるんですね。」
   今でもはっきりと覚えている。第2の読者――白夜さんが、私に初めて書いた言葉で
  あった(本当はこの後に、もう少し続くのだが、再現するのが照れくさいので省略する)。
   新たな読者ができたということにも、素直に喜べたのだが、自分の書く小説を「すごい」
  と言ってくれたのである。書き始めて実質1年半、当然のごとく、自信過剰にも――まし
  てや、謙遜するという以前のレベルであるということを、自分自身が1番よく分かっていた
  ――分かっていたが、それでも誉められるとやはり、嬉しいものである。若干の自信を回
  復し、私は短編の完結を急いだ。
   だが、その中で誤算が生じてしまった。大抵……というか、私の知りうる限りでは、短
  編といったらまあ、長くてせいぜい原稿40枚前後であり、オリジナルで278枚であった
  長編第1作を濃縮させた短編を、私の予定では60枚程度に収めるつもりだった。
   しかし――
  (……終わらない……なぜ?)
   オリジナルの時に味わった苦労を、短編でも味わうこととなってしまったのだ。結局、
  予定を大幅にオーバーして95枚となってしまったが、まあ3桁に乗らなかっただけマシだ
  ろうと、プラス思考に考えてHPに掲載することにし、そのことを流水さんの掲示板に宣伝
  した。
   読者2人の反応は、私の予想以上のものだった。嬉しいのか照れくさいのか、彼女達
  の反応を綴った掲示板を、私は必要以上に長く眺めていたのを、未だ記憶している。私
  は少々図に乗って、他の短編の完成も急いだ。
   そこで、少し前になってしまうのだが――私がHPを公開して、真っ先に相互リンクをし
  てくれたのが、私のパソコンの師・てっちゃんさんのHP「テイクオフ・ホームページ」と、
  流水さんのHPであった。その、流水さんのリンクの「HP紹介」のを見て、私は思わず
  赤面してしまった。
  「小説の師匠的存在」
   こんな言葉が、そのに含まれていたのだ。私は掲示板で、「そんなことはない」と書
  いたのだが、反応は変わらなかった。さすがに図に乗ることすらできず、“師匠”という
  文字に、私はしばし呆然とした。
   そして――2作目の短編を、1日限りで完成させてしまった。とはいえ、たったの原稿
  3枚なのであるが――正直、これはウケ狙いで、彼女達の反応が恐かった。未だそん
  なに自信がないとはいえ、こんな自分の小説を誉めてくれたのである。それが崩れるの
  が私は恐かった。
   だが、その反応は、私の懸念を吹き飛ばすかのようなものだった。完結させた翌日に
  白夜さんから感想があったのである。そして、その感想の後に、
  「弟子にしてもらおうかしら……」
   という文章が綴られていた。
   最初は、ジョークか何かだと思っていた。この俺に? 弟子? しかも……小説の?
   そう考えたところで、結論は出ない。私は半信半疑で、「後悔しても知りませんよ?」
  という返事を返しておいた。
   そして、数日後。「思いっきり期待させていただきます」という返事が返ってきた。何が
  何だか分からない。本気で弟子入りを考えているのか? 私は半ば、不安を覚えつつ
  も、「では、弟子の公認認定証を授けましょう」みたいな、文字通り半信半疑の返事を
  返すことにした。だが、ただそれだけではまずいだろう。心底は嬉しいと感じているもう
  1人の自分を見出しながら、彼女の小説の感想と、父親から聞いた「小説を書くにおい
  ての心得」のようなものを一緒に書き留めた。
   翌日。流水さんのことを「流水様」と呼ぶように、私のことも「ツボ様」と呼んでいた白
  夜さんは、その時も「ツボ様」という文頭で始めていた。そして、
  「やったぁ〜、弟子にしてもらえたぞぉ〜」
   という文章に繋がっていた。彼女は、私の書いた感想とアドバイスが役だったことや、
  もっと色々なことが聞きたいということを書いていた。それを見るにつれて、唇が少しず
  つ、緩んでくる。そしてそれは、文末に綴られたものを見て、動きを止めてしまった。
  「というわけで、これからもよろしくお願いしますね師匠!!(笑)」
   師匠。
   これを見て、ようやく実感した。いや、実感の始まりだったのだ。この掲示板での文章
  は、その証として今でも印刷したものを大事に保管してある。
   そしてこの日――98年3月2日。彼女が私のことを「ツボ様」と呼んだ最後の日であり、
  「師匠」と呼び始めた最初の日でもあった。
 
 
 


 
 
  次のページへ
 
  小説の目次に戻る
 
 
 
TOPに戻る