司野 馨  ―陰―   ツカサノ カオル  イン
 
     そこは暗いだけの世界。
     圧縮されたような闇の、空間。
     気が付けば、そんな所に存在していた。
     いったいいつ、生み出されたのか。何故己はここだけの世界なのか。
     知識の山はある。
     外、というものがあるはずだ。
     何故、己はここだけの世界なのか・・・。
     何故、外というものが無いのか・・・。
     外、に出たい。
     動き回るようになる。
     知識の山は増える。己はただ、動き回っているだけなのに。
     そもそも、知識とは何だ? 動くとは?
 
     ギモンだった。
     何故最初から、こんなにも、知識、というものがあるのか。
     最初から、己は『考えて』いる。
 
     あるとき、小さな明かりを見つけた。
     それには・・・・・外、があった。おそらく外だった。
     のぞき込んでみる。
     ・・・新鮮だった。
     『人間』がたくさんいる。その全てが、何かにひざまずいている。
     その何かを見たいと考えた。簡単に見ることができた。
     それは、二本の板が、交差しているものだった。
     ・・・十字架。そんな言葉が浮かぶ。おそらく、そんなものなのだろう。
     その時、初めて外を見れた。
     ますます、外に出てみたいと考えた。
 
     いつしか、この空間が解るようになった。
     これは、容れモノ。
     己を閉じ込めているもの。
 
     そう考えていると、のぞき穴は、やがて窓になった。
     外に、少し出れる。
     快感だった。
     それに、容れモノは、このことに気づいてないようだ。
 
     窓はやっと扉になる。
     本当の意味で、外に出れる。
     その時、己は、
     俺、になれる。
     やりたかったコト、ができる・・・!
     扉を、開け放った。
 
          転がる魂。もろく、あっけなく、儚く、汚れた。
          これを、清浄するためには、飾り立ててやればいい。
          ありがたく思え。ただの魂。
          肉の塊。
          俺が清めてやる。
 
     どうやら容れモノは、警官という職業らしい。言葉は知っていたが、意味
     はわからなかった。
     俺がしたことは、犯罪と呼ばれた。 ・・・飛んだ勘違いだ。
     考えてたことをやっただけなのに、失敬だ。
 
     でも、容れモノのしていることを見ていて、とても愉快だった。
     何も、気づいてないのだから。
     やがて、容れモノは、それが出来なくなった。
     ・・・いい気味だ。俺のことに気づきもしないで、のうのうとしてるからだ。
 
     それから、ちょくちょく支配してやった。でも、未だ気づきもしない。
     なんて、鈍い奴なんだ。
 
     ある時
     愛しいと思えるものを見つけた。どうしようもなく、モノにしたくなる
     ものだ。
     それは、こいつも一緒だ。その子に、自分の『理想』を託したんだ。
 
     そして、同じことを考えていた。すぐわかった。
     だが、支配出来る。俺には。
     ようやく、モノにすることが出来た。
     その子の名は・・・――
 
          「・・・司野さん・・・――」
 
     その漆黒の瞳。よどみの無い、意志。
     使える。この子は。
     俺の、『未来』の為に。
 
     もうそろそろ・・・
     中側にいるのも嫌になる。
     完全に外に出てやる。
     あの子のために、容れモノを消してやる。
 
          その時になりようやくこいつは気づいた。
          もう遅いというのに。
          なんて、馬鹿で、愚鈍な奴だ。
          『もうおせえよ!』
          そして、いってやった。
          『両親を殺したのは俺だ。どうだ、美しかったろう!』
 
     止めは簡単だった。
     止めまでがてこずった。
     案外にも、しぶとい。最早、お前はステージには立てないんだ。
 
     あの時と一緒だ。
     もろくて、あっけなくて、汚れていて。
 
     ・・・俺が、清めてやる。
     私、になってやる。
 
 


 
 前作―陽―の続編です。
 僕は推理ものなんてのは書けないのですが、このホラーものというか何というか、
 人間の裏の精神に直接語りかけるようなものも書けません(TT)
 書けそうで、書けないのです。巧みな言葉の組立ができない。
 いやぁ……師匠失格ですなぁ……。
 


 
 
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