St. James病棟のこどもたち ─栄養失調─
K.C.H.での研修を終え赴任した10月、 マラリア患者が圧倒的に多く、 死因も脳性マラリアが多かった。 やっぱりコタコタはマラリアが多いと実感した(私も例に漏れず赴任早々頂きました)。しかし11月になったとたんに栄養失調が増え、 そのため死んでいく子供も後を絶たなくなった。 ひどいkwashiorkor(タンパク質欠乏の栄養失調)の患者で、 全身の皮膚がビロビロにむけている子、 視力を失った子もいた。 母親はそんな状態になっても気づくのが遅いのである。 もう手遅れになってその哀れな子供の状態を知り、 悲しんでいる。 乾期の終わりから収穫の時期まで、 食料のストックがなくなってきているためどんどん増えて行くらしい。 “早く雨期が来て雨が降ってほしい” と本当に思った。とりあえずいつも卵・魚・肉を食べさせるように言っている。
栄養失調に関しては、 いろいろなケースを見たり聞いたりした。 ある日、 ちっちゃな男の子が入院してきた。 2才4か月だが、 体重はたった4、6Kg。 母親が結核患者で、 生後すぐに感染を予防するため分離され、 その子はおばあちゃんが水とリクニパラだけで育てたと言う。 貧しくてミルクも買えなかったようだ。 この年令になっても、 まだ立つことさえ出来ずにいた。 このおばあちゃんから、 リクニパラを作るのに砂糖と塩がないと言われた。 ここは患者は自炊で、 病棟の横のキッチンでお母さんたちは料理を作っている。 Home craft workerと呼ばれる栄養指導などしている人がいて、 その人に相談すると“砂糖や塩は患者自身が用意しなければならない”と言う。 この貧しい人たちはお金がない。 しかたなく病院内のスタッフハウスの自宅から砂糖と塩を持ってきて渡した。 その子にはビタミン剤が必要だがそのときその薬さえも切れていた。 ちょうどマンゴの季節だったので、 貰ったマンゴをとってきて食べさせるように言った。
マラウイの母親たちはUnder 5 Card を持っていて、 産まれてから今までのその子の体重がわかるようになっている。 このCard を見ると、 もう半年、 ある時は一年以上も体重が増えていない子がいる。 2才なのに体重が7キロくらいしかなかったり、 見るからに栄養失調である。 その理由をあげると、 乳離れする前に母親が妊娠したため母乳が貰えなくなった。 母親の健康状態不良のため母乳の出が悪い。 母親がセカンダリースクールの生徒で乳離れする前に学校に戻ってしまう。(マラウイでは1才半から2才まで、 母乳で育てている。)そして、 母親の死亡などである。 栄養失調の子供に関しては、 妊娠中の経過・生後の発育状態・家族を含めた健康・その他の問題となる背景など情報が重要なのである。 治療しても効果の上がらない患者に対して、 HIVの検査を行うことがある(これは、 その前にカウンセリングをして親の承諾を得た後にしている)。 AIDSが問題になっている国だけあって、 検査でHIV陽性と出る子供が多い。 しかし、 そんな子供には私たちはなにも出来ない。 入院していても、 お金がかかるだけなので、 検査後のカウンセリングをして退院させる。 ある時、 病院内のAIDS教育に携わる職員の孫にあたる10か月の女の子が入院してきた。 6か月から体重は横ばい、 そして今はゆっくりとした下り坂である。 長い期間下痢をしていたらしい。 さらに時間をかけて聞いていくと、 一つ上の子供が数カ月前に死んでしまったこと、 その子を妊娠していたときに父親が何か性病らしきものにかかったらしい事がわかった。 検査後、 やはりその子はHIV陽性であったが、 母親はその結果を認めなかった。 その結果が子供の事だけを示すものではないことを彼女も知っているだろうから。